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診療所便り

更新情報

広報みやけに連載している「診療所便り」の原文をご覧いただけます。

平成27年3月平成27年2月平成27年1月平成26年12月平成26年11月平成26年10月平成26年9月平成26年8月平成26年7月平成26年6月平成26年3月平成26年2月平成26年1月平成25年12月平成25年11月平成25年10月平成25年9月平成25年7月

平成27年3月 足の動脈硬化について

動脈硬化により、心臓や脳の血管が狭くなることはよく知られています。同じように、足の動脈も動脈硬化で狭くなることがあり、これを閉塞性動脈硬化症といいます。

閉塞性動脈硬化症は、初期は症状がありませんが、進行すると症状が出てきます。代表的な症状は、間欠性跛行(はこう)と呼ばれる症状です。これは、歩くと足が痛くなり、休むと痛みが良くなることを繰り返し、続けて長い距離が歩けなくなるというものです(腰の病気でも同様の症状が出ることはあります)。さらに進行すると、じっとしていても足の痛みが強くなり、最悪のケースでは足の血流が悪くなって、重い感染症や壊死にいたり、足の切断を要することもあります。

この病気は、肥満、喫煙といった生活習慣や、糖尿病・高脂血症といった病気が合わさって発症します。痛みを伴うため、生活に支障をきたします。また、心筋梗塞や脳卒中との合併も多いとされているため、最重症の閉塞性動脈硬化症は、5年生存率(5年後に生きている確率)が40パーセントとも言われる命にかかわる病気なのです。

閉塞性動脈硬化症は、早期発見・治療が重要です。禁煙や、生活習慣改善が大切であることは言うまでもありませんが、カテーテル治療や外科治療で症状が劇的に改善するケースもあります。診療所では今年から血圧脈波検査装置という、内地でも診断に用いられる機器の使用を開始しました。手足の血圧をはかるだけ、数分程度で終わる非常に簡単な検査です。思い当たる症状がある場合は、是非診療所外来でご相談ください。

舘野佑樹

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平成27年2月 インフルエンザについて

12月号でも少し触れましたが、インフルエンザが島内で流行してきており、まだしばらくこの傾向は続きそうです。インフルエンザは感染力が非常に強いので、都内では報告件数が減少傾向にありますが、上京時にはマスクをするなど感染には十分気をつけたほうがよいでしょう。

また、感染が疑われる場合は診断をつけるための検査を行うことになりますが、発熱などの症状が出現してもそれから約12時間、理想的には1日程度時間が経たないと感染していても検査が陰性に出てしまうことがありますので、受診についてはタイミングを見て行ってください。

治療については、タミフルやリレンザといった抗ウイルス薬がありますが、効果としては発熱の期間を1日程度短縮するのみですので、とくに若い方では一般の感冒と同様に、水分などの摂取と体をよく休めるといった対応のみで十分なことが多いです。発熱などの症状が辛い場合は解熱剤の処方などの対応を行っていきます。

また、島での感染拡大に重要なことは予防接種の普及です。残念なことに今年は予防接種のワクチン株が流行株と十分一致しませんでしたが、今年度の感染確認者もワクチン接種をしていない方が多い傾向にあります。また、高齢者や子どもの感染者も見られますが、高齢者は例えば老人ホームで肺炎と入院を防止する効果は50~60パーセント、また死亡を防止する効果は80パーセントというデータもあります。

三宅島は他の島と比べても予防接種率が低いという現状もあり、ぜひ来年度は皆さんで、特にお子様や高齢者と一緒にお住いの方は予防接種を積極的に受けて下さい。

三ツ橋佑哉

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平成27年1月 脳卒中について

脳卒中は、脳梗塞・脳出血・くも膜下出血の総称であり、脳の緊急疾患を意味する言葉です。病気の中には季節性のある病気がありますが、脳卒中はその一つで、冬に多いといわれています。脳卒中の死亡率は年々減少傾向ですが、依然死亡原因の上位3番に入る病気であり、仮に命が助かったとしても重い後遺症を残す可能性があります。

特に脳梗塞や脳出血は、脳の血管が詰まる、ないし破れて出血することによって起こる病気です。血流が無くなって脳細胞が壊死する、血の塊に直接圧迫されることで脳の機能に障害をきたします。障害を受ける脳の場所によって症状が異なりますが、全く症状がないものから、軽い痺れ・動きにくさ、歩きにくさ、しゃべりにくさ、重症のものでは半身麻痺、死亡に至るケースもあります。

これらの病気で大切なのは、発症した場合はなるべく早期に治療に移るということに尽きます。当診療所では医師の診察や、頭部CTによって診断を行います。脳梗塞・脳出血の場合は原則内地の医療機関へ搬送し、治療を行うことになります。脳細胞は時間がたつほど回復する可能性が少なくなるため、早期に治療・リハビリを開始することが、後遺症をなるべく少なくするために大切です。脳梗塞・脳出血の発見のため、診療現場でも行われている検査があります。

  1. 片側の口元が下がる、顔の半分が下がる。
  2. 手を上げさせると片手だけ落ちてしまう。
  3. 呂律が回らない。

この3つが突然に起き、すべて当てはまる場合は、高い確率で脳梗塞・脳出血が疑われます。もちろんこれで全てが分かるわけではないですし、あてはまらなくても否定はできません。もし脳卒中が疑われる症状があった場合は、早めに診療所へ御相談ください。

舘野佑樹

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平成26年12月 風邪との関わり方

寒さが厳しくなり、冬の訪れを感じる季節になってきました。風邪をひく人も増えてくる時期です。仕事の疲れなど免疫力が低下した状態で風邪にかかると、咳、鼻水、喉の痛みなどの様々な症状が出ます。このように様々な場所に症状が出るのが風邪の特徴です。

診療所で処方する薬は風邪を「治す」ものではありません。体の免疫の力で風邪のウイルスが退治されるまでの間、辛い症状を「和らげる」ためのものです。十分な休息や睡眠が一番の治療です。また、原因のほとんどはウイルスであり、抗生物質は効果がありません。

さらに、子供は免疫の機能が十分でないこともあり、頻繁に風邪にかかります。熱もよく出すと思いますが、熱が出ることは体がウイルスを取り除こうとするために起こす正常な反応です。解熱剤を使って熱を下げることは、ウイルスが体からいなくなる時期を遅らせるかもしれません。まずは水分と休息をしっかりとらせ、子供の状態をよく観察してあげてください。診療所への受診は子供がぐったりするなど、いつもと違う変化があれば検討してください。

風邪と思っていた病気の中には大きい病気が紛れていることがあります。例えばインフルエンザは同様にウイルスの感染症ですが、感染力が非常に強く症状も強く出ることが多いです。今年は既に三宅島でも確認されています。ウイルスは鼻水や唾液など分泌物の中に大量に含まれ、それに触れることで広がりますので、手洗いやうがい、マスクの着用など感染予防は念入りに行ってください。
また、発熱で受診する場合は、まず診療所にご一報ください。皆さんで協力しあって、島内での感染拡大に努めましょう。

三ツ橋佑哉

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平成26年11月 認知症と向き合うということ

高齢化社会となり、認知症患者の増加が社会問題となりつつあります。高い高齢化率となっている三宅村も当然例外ではありません。認知症は単なる「物忘れ」とは異なり、徐々に脳の機能が低下し、それとともに全身の機能が低下していく「病気」であるといえます。それにもかかわらず、認知症によって起こる症状である、介護への抵抗、昼夜逆転、妄想などの事柄が、本人の性格や年のせいなどとして片づけられ、適切に対処されていないケースもあります。

認知症の治療は、薬物治療のみではありません。家庭を含め、福祉サービスの利用などによって、精神的・肉体的な「ケア」も同時に行われることが不可欠です。フランス発祥で、最近日本でも話題になってきている「ユマニチュード」という概念は、認知症高齢者に対する専門的な「ケア」の方法を示しており、実際に認知機能改善の効果もあるとされています。

これ以外にも実践的なケアの方法が挙げられています。もちろん、家庭の中でこのすべてを実践することは不可能かもしれません。決してご家族のみでケアの不安を抱え込まないでいただきたいと思いますし、福祉サービスの利用を相談することができます。診療所も窓口の一つとなることができますので、認知症に関する相談、認知症の家族のケアが大変になってきた場合、など何でも構いませんので、気軽にご相談いただけましたら幸いです。

舘野佑樹

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平成26年10月 インフルエンザと予防接種

秋の気配が感じられるようになり、今年もインフルエンザ予防接種の季節がやってきました。インフルエンザはただの風邪ではありません。咳や鼻水などの症状の他に急激な発熱、頭痛、筋肉痛、関節痛、倦怠感などの全身症状を伴います。また、感染をきっかけにして重篤な合併症を起こすことがあり、乳幼児では感染後に脳症や肝不全、肺炎を起こしたり、高齢者では呼吸器疾患や心不全、腎不全や糖尿病などの持病悪化にも繋がったりします。

発症した場合にはタミフルRなどの抗ウイルス薬を使って症状の改善を1日程度早めることはできますが、予防に勝るものはありません。例年12月中旬には流行期に入りますが、接種してから免疫がつくまで2週間程度かかりますので、12月に入る頃までには接種をすませておきましょう。

健康な成人のインフルエンザに対するワクチンの発症予防効果は70~90パーセントと高い効果が認められています。また、ワクチン接種は高齢者の死亡の危険を約80パーセント減らすなど、重症化を防止する効果もあります。

高齢者や乳幼児と同居しているご家庭の方は、免疫力が十分でない家族にうつさないためにも予防接種を受けていただくことをぜひお勧めします。また、多数の方と接触する職業に就いている方もうつさないための予防として接種することは大変重要です。普段健康なために今まで予防接種と縁がなかった方も多いと思いますが、ぜひ積極的に接種を受け、島全体で予防に努めていただきたいと思います。皆様のご協力をよろしくお願い致します。

三ツ橋佑哉

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平成26年9月 大腸がんについて

大腸は食物が消化吸収されて最後に通る腸で、便を作る働きをしています。大腸がんは、この長さ約2メートルの腸にある大腸粘膜の細胞から発生し、ポリープから腺腫(せんしゅ:腺組織の上皮から発生する良性の腫瘍)を経てがんになるものが多いです。一般的に進行はゆっくりですが、次第に大腸の壁深くに侵入し、その後にリンパ節や他の臓器へ転移します。治療は、がんの進行度により差はありますが、内視鏡治療、手術、化学療法などの選択肢があります。

大腸がんの症状は様々で、血便、便が細くなる、おなかが張る、腹痛、貧血などがあります。早期であれば高い確率で治すことができますが、一般的には早期の段階では自覚症状がありません。よって、無症状の時期に発見することが重要となります。

大腸がんの発見には、便に血液が混じっているかどうかを検査する便潜血検査が有効で、症状が出る前に検診での早期発見が可能です。なお、便潜血検査は診療所でも簡単に行えます。

この検査が陽性の場合は精密検査として大腸内視鏡を行い、大腸がんが本当にあるか調べることになります。陰性でも大腸がんが疑われる症状のある場合は、相談の上で大腸内視鏡を行うこともあります。なお、大腸内視鏡は診療所では行えないので内地の医療機関で行うことになります。

大腸がんは日本人には2番目に多いがんで増加傾向にあります。一方で適切に治療が行われれば完治の可能性も高く比較的たちの良いがんでもあります。心配な症状がある場合や便潜血検査や大腸内視鏡検査を希望する場合は、診療所へぜひともご相談ください。

舘野佑樹

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平成26年8月 タバコと肺気腫

今月はタバコについてのお話です。タバコの様々な健康被害についてはご存知の方も多いと思いますが、今回はその中でも特に「肺気腫」という病気に注目してみたいと思います。

正式には「慢性閉塞性肺疾患(COPD:シーオーピーディー)」と言い、タバコなどの有害な空気を吸い込むことによって、空気の通り道である気道(気管支)や、酸素の交換を行う肺(肺胞)などに障害が生じる病気です。その結果、肺での空気の出し入れがうまくいかなくなるため通常の呼吸ができなくなり、様々な症状を起こします。長期間にわたる喫煙習慣が主な原因であることから、COPDは“肺の生活習慣病”とも言われ、社会的にも注目されています。

COPDが怖いのは、それを見つけても完全に治すことができない病気だということです。治療の基本は病気の進行を抑えることになります。治療を行わずに放っておくと、将来的にはあまり動かなくても呼吸をすることが困難になり、常に移動には携帯用の酸素を持ち歩かないといけなくなる可能性があります。

この病気はいかに早く発見するかが非常に重要です。症状としては、体を動かしたときの息切れや長く続く咳・痰などがありますが、それらの症状を「年をとったから」と思い検査をしなかったため発見が遅れ、病気が判明した時にはかなり進行している例もみられます。診断にはスパイログラムという、息を吐いて肺の機能を評価する検査を行います。診療所でも簡単に検査を行うことができますので、気になる症状がある方は是非検査を考えてみて下さい。

三ツ橋佑哉

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平成26年7月 胃がんとピロリ菌

人間ドックや消化器検診などで、「委縮性胃炎」「慢性胃炎」「ピロリ菌感染」などを指摘されることがあります。今回は、慢性胃炎やピロリ菌感染と、胃がんの関連について書きたいと思います。

ピロリ菌は胃がんの最大の原因と言われています。ピロリ菌が胃に感染していると、徐々に胃の粘膜が委縮して委縮性胃炎(=慢性胃炎)といわれる状態になります。慢性胃炎自体はありふれた病気ですが、胃がんの大部分がこの慢性胃炎から発生することから、慢性胃炎の治療(=ピロリ菌の除菌)によって胃がんが予防できるといわれています。

さらに、慢性胃炎が重症化した方に比べ、まだ慢性胃炎が初期の若年者に対してピロリ菌の除菌治療を行うことが、より胃がんの予防効果が高いことが報告されています。

ピロリ菌に感染しているかどうかは、採血検査・呼気検査など簡単な方法で診断することができます。感染が証明された場合には、3種類の飲み薬を1週間内服する除菌治療が広く行われており、診療所でもこの検査と処方の両方が可能です。除菌治療をするためには、現在の胃の状態を内視鏡検査で調べておくことが必須となりますが、内視鏡検査も診療所で行うことができます。

胃がんは、早期発見が可能になったこともあり、死亡率は減少傾向にありますが、なお罹患率・死亡率はがん全体の5位以内に入る病気です。しかし、早期発見できれば、内視鏡治療や腹腔鏡治療などストレスが比較的少ない治療ができる場合があります。胃がんやピロリ菌について、検査の御希望や御質問などありましたら、是非診療所まで御相談ください。

舘野佑樹

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平成26年6月 高血圧とのつきあい方

診療所を受診する多くの患者さんは色々な生活習慣病を持っていますが、その中でも今回は高血圧についてお話ししたいと思います。

高血圧に限らず多くの生活習慣病は、それらを治療せずに放っておくことで将来的に脳梗塞や心筋梗塞などの大きい病気を起こす危険性が上がるため、治療を行っていく必要があります。まずは「高血圧がある」という認識をすることから始まりますので、その為には血圧の測定が重要となります。

私は患者さんには朝であれば起床後トイレに行った後などリラックスした状態で、起きてから時間を空けずに測るようお話ししています。また夜であれば寝る前の測定をお願いしています。血圧は1日通して安定していることが重要ですので、測定回数は1日2回朝晩でよいですが、血圧が安定していたり、複数回の測定が難しければ1回でも問題ありません。1回目と2回目の数値が大きく異なる方がいますが、多くの方は1回目が高く出る傾向がありますので、記録は2回目をして頂ければ良いと思います(日本高血圧学会は2回の平均値の記録を推奨しています)。毎日の測定が難しい方であれば、数日に1回でもよいでしょう。

大事なことは「血圧の測定を日課にすること」だと思います。「体調が良いので血圧は測るのを止めました」という方がいらっしゃいますが、体調が悪い時に血圧が高いのは寧ろ当たり前で、体調がよい時でも血圧は高くないことを確認するために血圧を測り続けることが大事だと思います。症状がないので血圧は放っている人も是非この機会に目を向けてみて下さい。また中には、ホルモンの異常など別の病気のために血圧が高くなっている人もいます。特に比較的若い方で病気が見つかることがありますので、健診などで血圧が高いと指摘された方は是非相談して下さい。

三ツ橋佑哉

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平成26年3月 実は身近な「アルコール依存症」

酒は百薬の長と言いますが、その一方で、過度の飲酒は万病のもとでもあります。お酒との上手なお付き合いを心がけていないと、いつの間にか「アルコール依存」になってしまうことがあります。

依存とは、それがないと身体的、精神的な平常を保てなくなる状態のことを言います。日常的に飲酒をしていると、同じ量の飲酒でも満足な酔い心地が得られなくなり、酒量が増加していきます。やがて「お酒が欲しくてたまらない」という渇望が現れることがあり、この強い欲求を精神依存といい、お酒を求めて家中を探し回ったり、隠れてお酒を飲んだりするようになります。

アルコール依存の問題は身体面にも及びます。身体依存とは酒が切れたり飲む量を減らしたりした際、時に体に症状が出ることを指し、不眠、発汗、手の振るえ、不安、いらいらなどの症状があります。身体症状はお酒が切れた時に出現するため、症状を止める目的で飲酒するという悪循環となり、一層禁酒することが難しくなります。

アルコール依存症は男女に関係なく見られ、年齢分布もさまざまです。中年期の男性に比較的多いですが、最近は若い女性の依存症も増えており社会的な問題となっています。アルコール依存症と普通の飲酒者とは明確に区別出来るものではなく、また、長い年月をかけて徐々に進行するため、本人も周りもなかなか気付くことができません。自分の意志で飲酒量をコントロールできなくなってしまう前に、習慣的飲酒者は誰もが依存症になる可能性があるということに気をつけましょう。

川村美波

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平成26年2月 老衰のパターン

「病気で苦しむことなくピンピンコロリと自宅で死にたいね」とはよく聞く話です。以前に比べると終末期の苦痛を和らげるための緩和医療・介護保険サービス・在宅医療などが身近になりましたが、できることなら苦しまずに自分が知らないうちに逝ってしまいたいものだと思います。

厚生労働省発表の統計からは日本人の死について多くのことが読み取れます。2012年の日本人の平均寿命は女性が86.4歳、男性が79.9歳で、女性は世界一、男性は第5位でした。2010年の人口動態統計によると死亡者の総数は約120万人、77.9パーセントが病院で亡くなり、自宅で亡くなったのはたった12.6パーセント、他には老人ホーム3.6パーセント、診療所2.4パーセントでした。80歳以上の死亡原因は、悪性腫瘍による癌死が20.5パーセント、心臓病18.3パーセント、脳卒中11.7パーセント、肺炎 13.8パーセント、老衰 6.6パーセントでした。三宅島住民がどこでどのように亡くなるかの調査は今回のコラムには間に合わなかったため、おそらく前述の全国平均とは大きく変わらない印象がありますが、どうも「ピンピンコロリ」と自宅で亡くなることは平均的なことではないようです。

人は4つのパターンで亡くなります(別表参照)。一つ目は交通事故やくも膜下出血・心筋梗塞などが原因の突然死、二つ目はぎりぎりまで身体の健康な状態を保ち、その破綻直後に病死にむかう癌死で、「つい最近まであんなに元気だったのに・・・」と言われる所以です。三つ目は心臓・腎臓・肝臓などの重要臓器不全のために、良くなったり悪くなったりを繰り返しながらゆっくり悪化していく病気で、持病が悪化した際には入院で治療しますが、回復が得られなければ病院で亡くなる場合が多くなります。4つ目は認知症や“いわゆる“老衰で亡くなる場合です。1980~90年代は突然死と癌死が多かったのですが、21世紀に入ると臓器不全と”いわゆる”老衰が増加してきています。前述の80歳以上の死亡原因を見ると癌死以外はこの二つのパターンに含まれ、高齢者が突然死を望むのは難しそうです。

老衰のパターンを示した画像。

「いかに老いと向き合うか」について話すと、「希望をなくすようなことは言わないでくれ」とお叱りを受けそうです。しかし、高齢患者さん本人や家族に病気や老いの経過、死亡のパターンを示すことで、いざという時のためのより具体的な準備ができると思います。「より長く生きる」から「より良く生きる」という発想の転換が必要なのだと思います。そして、突然心肺停止状態になった場合、急性疾患にかかり入院加療が必要になった場合、老衰が進んで口から食事が食べられなくなった場合など、家族に自分はどうして欲しいか日頃から伝えていって欲しいと思います。

三好雄二

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平成26年1月 正しく知って、防ごう!「ノロウイルス感染症」

11月から3月頃の冬期に流行する感染性胃腸炎の代表的なものに「ノロウイルス感染症」があります。 保育園や小学校など子供たちが集団生活をおくる施設、高齢者福祉施設などで感染が広まることがあります。ノロウイルスの感染はほとんどが経口感染で、以下のような感染経路が知られています。

  1. 人の糞便中のノロウイルスが下水を経て川から海へ運ばれて二枚貝に蓄積され、それを十分に加熱しないで食べて感染する場合。
  2. ノロウイルスの感染者が十分に手洗いを行わず、ウイルスが手についたまま調理を行ってその食品を食べて感染する場合。
  3. ノロウイルスを含む糞便や嘔吐物を処理した後、手についた少量のウイルスが口から取り込まれる場合。

患者の糞便や嘔吐物には1グラムあたり100万~10億個もの大量のウイルスが含まれていますが、ノロウイルスは100個以下という微量で人に感染して症状を引き起こします。また、アルコールや高温に対する抵抗性が強いことが知られ、乾燥にも強く、水中でも長時間感染力を持ちます。
主な症状は、吐き気、嘔吐、腹痛、下痢で、あまり高熱にならないことが多いです。感染してから発病までの潜伏期間は24~48時間で、症状が1~2日続いた後に治癒し、後遺症はおこりません。感染しても発症しない場合や、軽い風邪のような症状の場合もあります。

ノロウイルスに対する特効薬はありません。抗生物質は効果がなく、下痢の期間を遷延することがあるので通常は使用しません。まずは嘔吐や下痢によって脱水にならないよう、水分の補給をし、症状の緩和目的に吐き気止めや整腸剤を使用します。下痢が長引く場合は下痢止めを投与する場合もありますが、回復を遅らせることがあるためあまり用いられません。

ノロウイルスの感染拡大を防ぐために注意する点は、食事の前やトイレの後にはしっかりと手を洗い、患者とタオルを共用で使用するのを避けることも必要です。下痢やおう吐等の症状がある方は、食品を直接取り扱う作業をしないようにしましょう。食品中のウイルスは加熱により感染性をなくすことができるので、食品にはしっかり熱を通して食べましょう。患者の便や吐物の処理をする時は素手で触らず、必ずビニール手袋を使用し、汚物の消毒には市販の塩素系消毒剤(漂白剤)を希釈したものを使用してください。ウイルスは乾燥すると空気中を漂い口に入って感染することがあるので、便や嘔吐物を乾燥させずに迅速に処理することが重要です。

川村美波

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平成25年12月 糖質制限食のすすめ

糖尿病は血糖値が高く持続することによって動脈硬化が進行する疾患です。食事療法が血糖値を低く保つための基本であり、低脂肪とカロリーの制限が勧められてきました。しかし、カロリー制限食は各食事でのカロリー計算や栄養バランスの調整が複雑であり、食べられる量が少なく、美味しいものが食べられないために継続することが難しいと感じる方が多いです。

糖質制限食とは「1日の糖質摂取量を130グラム以下におさえる」食事のことです。自身も一型糖尿病であるアメリ人医師のバーンスタイン先生が発案した糖尿病の食事療法です。三大栄養素である蛋白質・脂質・炭水化物のうち、食後に血糖値を上昇させるのは炭水化物のみであるという栄養学的知識が背景となっています。蛋白質・脂質であれば制限はなく、カロリー制限もありません。

2008年に”New England Journal of Medicine”という信頼性の高い医学雑誌に”DIRECT試験 “という肥満者を脂肪制限食、糖質制限食、地中海食に抽選で振り分け、その減量効果を二年間観察した研究が報告されました。脂肪制限食は日本のカロリー制限食とほぼ同じであり、地中海食とはナッツ、オリーブ油、魚、フルーツを中心にした食事で、パスタやフルーツで糖質を、魚を中心とした蛋白質を摂取します。脂質の割合が高くなります。この研究では、減量効果が最も高かったのが糖質制限食であり、二番目が地中海食、そして、最も効果が低かったのが脂肪制限食でした。

糖質が多いのは第一には主食となるものです。米・小麦・そばなど穀類を使ったものです。餅・せんべい・スナック菓子も同じです。たれや調味料のとろみも小麦を使っています。第二にはイモと名のつく食品です。第三はれんこんなどの根菜類も大量に摂取するとほどほどの糖質を含んでいます。

日本人の食事は、主食と副食の組み合わせとなっています。主食を完全に抜くという極端な方法もありますが、1食の糖質を40グラム以下に制限して少量でも主食を食べていく方が長続きしやすいです。ごはん70グラムで糖質量25.8グラム、6枚切パン1枚で26.6グラム、スパゲティ乾麺40グラムで27.8グラムとなります。主食を全くとらないなら、副食に含まれている糖質は気にせずにとれます。少量でも主食を食べながら糖質制限を行うのであれば、主食分を計量して、一回の主食でとる糖質量を20グラム以下に制限します。お酒はビールや日本酒などの醸造酒には糖質が含まれています。蒸留酒である焼酎やウィスキーでは血糖値はあがりません。ワインは少量であればそれほどの糖質は含まれていません。

血糖値だけではほとんどの方が無症状です。将来の合併症予防の為に医療機関に通院を継続できる方は半分に達しません。真面目に病気と向き合って通院しても、継続が難しいカロリー制限食を順守できないために血糖管理が上手くいかないと自己嫌悪に陥って、患者さんは幸福になれません。カロリー制限食が難しいと感じてきた方々は、糖質制限食をためしてみてください。糖尿病ではない方々も血糖値があがらない食習慣を身につけて、生活習慣病の予防につなげてください。

(注)経口血糖降下薬の中で低血糖を起こす薬剤を内服している方々、肝障害や腎障害のある方々は主治医と糖質制限食に関して相談してから始めるようにしてください。

三好雄二

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平成25年11月 骨粗鬆症の進行予防と、丈夫な骨づくりのお話

骨粗鬆症は、鬆(す)の文字が示すとおり骨がスポンジのように脆くなる病気で、日常生活での僅かな衝撃でも骨折をしやすくなります。近年、患者数は急増しており2010年の調査では、男女合計で約1280万人と推定されています。これは総人口の約1割、65歳以上の高齢者の4割以上にのぼります。女性ホルモンの分泌低下で骨密度が低下するため、閉経後の女性がかかりやすくなります。その他、遺伝や、運動不足、やせ、ステロイド薬の使用、喫煙、過剰の飲酒も骨粗鬆症の要因となります。

骨粗鬆症はできるだけ早期に発見し治療を開始することが大切です。飲み薬の治療薬の代表は、破骨細胞(=骨を壊す細胞)の作用を抑えるビスホスホネート製剤です。その他、活性型ビタミンD3、女性ホルモン製剤なども使われます。最近では、重症患者さん向けの骨芽細胞(骨を作る細胞)を活性化させる注射薬や破骨細胞の働きを抑えるタイプの注射薬も登場しています。

食事療法としては、カルシウム、ビタミンD/ビタミンKなど、栄養素の摂取が肝心です。カルシウムはビタミンDを同時に摂ると吸収率がよくなります。日常生活では、階段の上り下りや散歩などの軽運動を取り入れましょう。骨を丈夫にするためには体重をかけることが特に大事です。フラミンゴのように「片足で立つ」という運動を継続するだけでも効果があります。壁につかまりながら行っても構わないので、くれぐれも転ばないよう注意して、片足約1分間ずつを目標に行ってみてください。

活動的に過ごせる時間を延ばせるよう、丈夫な骨づくりをしていきましょう。

川村美波

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平成25年10月 インフルエンザワクチン予防接種のすすめ

インフルエンザはただの風邪ではありません。咳、鼻水などの感冒症状のほかに、急激な発熱や頭痛、筋肉痛、関節痛、全身倦怠感などの全身症状を伴うものをインフルエンザ様疾患といいます。北半球では毎年12月から3月頃に流行します。

インフルエンザ感染そのものは自然治癒しますが、感染を契機に重篤な合併症を患うことがあります。乳幼児では感染後の脳症、肝不全、肺炎をきたします。高齢者では、呼吸器疾患・心不全・腎不全・糖尿病などの持病の悪化へつながります。日本でのインフルエンザによる超過死亡は毎年1万人以上と推定され、合併症の発症はその数倍と思われます。

現在は、インフルエンザ(H1N1)2009、A香港(H3N2)型インフルエンザ、B型インフルエンザ(山形)、B型インフルエンザ(ビクトリア)の4種類が流行しています。タミフルRなどの抗ウィルス薬によって症状改善を1日程度早めることができますが、予防に勝るものはなく、予防接種が必要です。

ワクチンは、インフルエンザウィルスの構造のうち、感染防御に関連した部分を抽出した不活化ワクチンです。2種類のA型と1種類のB型を含んだ3価ワクチンとなっています。インフルエンザウィルスは抗原性が変わりやすく、ワクチンの効果も5カ月程度とされているので、12月頃までに毎年の接種が必要です。ワクチンの効果は、インフルエンザワクチンに含まれる株と流行株との近似性、被接種者の年齢や健康によって異なります。
ワクチンによる発症阻止効果は65歳以下の健常者では約90パーセント、高齢者では30~40パーセントと言われています。高齢者の場合は、入院率が50-60パーセント減少し、合併症による死亡阻止効果が80パーセント程度と言われています。

鶏卵アレルギーの方は接種時に注意が必要ですが、鶏卵アレルギーを持っている乳幼児や喘息患者はインフルエンザ感染症のハイリスクな人達です。鶏卵アレルギーの重篤度によって接種を個別に検討できます。かかりつけ医に相談してください。

自分がかからなければ、周囲への感染伝播は起こらず、家族や友人などを間接的に守ってあげることになります。自分だけでなく、周囲の人の為にも、ぜひワクチンを接種しましょう。

三好雄二

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平成25年9月 糖尿病管理の目標 "Keep your A1c below 7%"

国民の4人に1人以上が糖尿病かその予備群であることが、厚生労働省の「2011年国民健康・栄養調査報告」で明らかになった。糖尿病では、高血糖が持続するために、蛋白質と過剰なブドウ糖が結合し、最終糖化産物(AGEs)が産生されます。このAGEsが血管・神経などに影響することによって致命的な合併症を発症します。治療の目標は、血糖値を下げて、合併症を呈さない、進行させない。つまり、健康なスローエイジングです。

日本糖尿病学会は、平成25年5月に「熊本宣言2013 -あなたとあなたの大切な人のために Keep your A1c below 7% 」を発表しました。昭和62年から平成10年にかけて熊本県で行われた日本人の糖尿病患者を対象とした熊本スタディにおいて、過去1~2ヶ月の血糖平均値を反映する検査値であるHbA1c(ヘモグロビン・エイワンシー)が7.0パーセント未満であれば合併症の出現する可能性が少ないことがわかりました。この「7.0パーセント未満」が糖尿病の目標です。

膵臓から分泌されるインスリンによって健常者では、いつ血糖値を計測しても140mg/dlを超えることはありません。血糖値は、二つの理由で上昇します。「インスリン分泌量不足」と「インスリンが分泌されても血糖値の下がりが悪くなるインスリン抵抗性」のためです。農耕民族である日本人は、インスリン分泌が白色人種と比べて低いことが指摘されています。現代の飽食の時代には、日本人は痩せていても血糖値が上昇します。インスリン抵抗性の原因は内臓脂肪です。肥満が糖尿病になる理由です。

正常血糖から糖尿病になるまでには、約7~10年の典型的な経過があります。食後のインスリン分泌量が徐々に減少し,食後の血糖値が上昇します。この状態が境界型糖尿病です。次に,食後高血糖の状態がつづくと、全体的なインスリン量が足りなくなり、起床時の血糖値まで上昇してきます。一日中血糖値が高い状態となり、気が付いたときには糖尿病になっています。

食後高血糖を下げるためには、食後に15~20分程度の有酸素運動をすること、食事は野菜から食べ始め、ゆっくりと食べ、主食の炭水化物を少なくするのが重要です。脂肪・蛋白質・アルコールは血糖値を上げる効果はありません。最近は「糖尿病はご飯よりステーキを食べなさい」と言われる程に糖質制限が注目されています。糖尿病の方は、血糖が上がりやすいという「体質」を持っています。この「体質」は残念ながら一生変えることはできませんが、この「体質」に合った生活さえすれば、普通の人と同じ一生を送れます。その目標値が「HbA1c 7パーセント未満」です。

三好雄二

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平成25年7月 高齢者の肺炎は肺炎球菌ワクチンで半減できる!!

肺炎は「老人の友」と言われ、加齢とともに罹患しやすくなります。 これまで悪性腫瘍・心疾患・脳血管疾患に次いで、「肺炎」は日本人の死因の第四位でありましたが、平成23年度に脳血管疾患を上回って死因の第三位となりました。
年齢と共に免疫力が低下し、高血圧・糖尿病などの様々な疾患を患うために、肺炎に罹患しやすくなります。更に80歳以上の高齢者にとっては、気管に唾液や飲食物が入ってしまう「誤嚥」が肺炎の原因となります。

肺炎の治療には1~2週間程度の抗菌薬治療を要し、酸素や点滴が必要な場合には入院治療となり、患者・家族にとって更に負担となります。
2010年の英国誌「British medical journal」にて国立病院機構三重病院呼吸器内科の丸山貴也氏らが、複数の高齢者施設の入所者を対象に23価肺炎球菌ワクチン接種を行い、肺炎発症率を観察した研究を発表しました。同報告では、ワクチン接種者502人で肺炎を発症したのは63人、ワクチン非接種504人では104人が発症したと報告し、肺炎球菌ワクチン接種が全肺炎の44.8パーセントを予防したことを証明しました。
米国では、1984年から肺炎球菌ワクチンの接種が始まり、2005年時点では65歳以上の64パーセントが接種していました。今後の目標としては、90パーセント以上の接種率を目指しています。

一方、日本では接種率は伸び悩んでおり、2006年時点で3パーセント、その後、各市町村での助成制度などの追い風がありましたが、2012年においても10パーセント程度の接種率で低迷しています。予防に勝る治療はありません。特に山間・離島などの僻地では、医療資源に乏しく、予防医療の重要性は都市部以上です。利島村では、平成24年度に65歳以上の約90パーセントの住民が肺炎球菌ワクチンの接種を済ませています。

肺炎予防のために、肺炎球菌ワクチンの接種を検討してみてください。

三好雄二

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